術中支援装置

当院では、脳腫瘍などの手術に際し、その安全性を高めながら最大限の摘出を行うための支援装置(術中支援装置)を有しております。神経内視鏡(※)につきましては、別の章でくわしく述べさせていただきますが、ここでは、術中MRI(※)、術中蛍光診断(※)、術中機能的ナビゲーション(※)、術中電気生理学的脳神経機能モニター(※)について解説します。

術中MRI装置について

当院の手術室にある術中MRIは、天井懸架式1.5テスラ高磁場術中MRI(iMRI)と天吊り型ナビゲーションシステムを兼ね備えた世界でも最先端のiMRI画像誘導コンピューター支援手術室(イムリス・ビシウス・サージカルシアター)です。本手術室システムは、 欧米の有名大学病院で導入されておりますが、日本では筑波大学が初めて導入しました。本システムは、画像処理のワークステーションとソフトウエアも完備し、様々な種類の画像処理が可能です。
では、手術中の高磁場MRI撮影でなにがわかるのでしょうか?本システムにより、①正常脳との境界がわかりにくい脳実質内腫瘍を始め、浸潤性の頭蓋底腫瘍や脳深部腫瘍など手術困難な脳腫瘍手術での腫瘍の取り残しを防ぐことができるのみならず、②正常な神経線維の走行を手術中に確認できることで、より安全確実な腫瘍の切除が可能になります。もちろん、術中蛍光診断、術中電気生理学的脳神経機能モニター、覚醒下手術など、私たちが現在行っている他の最先端技術との併用も可能です。
また、このシステムの大きな特徴は、世界で唯一の天井懸架移動式であることです。全身麻酔下で患者さんを移動させることなく、MRI装置側が術中に手術室内に移動して撮像を行うため、(通常のiMRIのような)患者さんの移動に伴う危険性がなく、患者さんの負担が少ない画期的なシステムになっております。手術で使用しない時間帯は通常のMRI検査のために利用することが可能です。その際にも手術室にMRIがあることで、全身麻酔下の検査が行いやすいという利点もあります。
当院では、本術中MRI装置の使用に際し、医師側のトレーニングも行ってまいりました。先に本システムが導入されていたカナダ カルガリー大学、ドイツ チュービンゲン大学にスタッフを派遣して、使用にあたってのトレーニングを積んできました。他システムの術中MRIについても、ドイツ エアランゲン大学および国内の複数の施設に見学にいっております
すでに、200例を超える症例に本術中MRI装置を使用した手術を行っており、これまで以上に良好な摘出率を経験してまいりました。また、本装置を駆使した術中(機能的)ナビゲーション(※)により、神経学的な合併症も非常に低く保てております。

▲神経膠腫の患者さんに対する術中MRIの例 左が術前MRI(T2強調画像)で、術中MRI画像(FLAIR、中央)により、摘出部の外側にわずかな高信号領域が残存していたため、追加摘出。 2回目の術中MRI画像(FLAIR、右)では高信号領域は消失。

グリオーマ手術症例

腫瘍周囲に運動神経線維(水色)と言語の神経線維(黄緑)が走行している。術中撮影で残存腫瘍と言語の線維との距離を確認し、再摘出した。腫瘍は摘出され、言語の線維は温存された。

 

術中(機能的)ナビゲーションとは

手術中に、MRIナビゲーションシステムという技術を使用し、腫瘍の範囲を確認することはもちろんのこと、MRトラクトグラフィー等の技術により、運動や言語の線維の位置をリアルタイムに確認しながら腫瘍の摘出を行う手技を指します。2012年末に新病院に最新の術中MRIが導入され、週2件のペースで術中MRI撮影を伴う手術を行っておりますが、残存腫瘍の確認はもちろんのこと、術中MRIのデーター処理を術中に行い、MRIナビゲーションの再構築(再レジストレーション)やMRトラクトグラフィーの再評価により機能的な神経線維の位置を正確に同定することが可能となっております。超高齢者や深部病変に対しては、なるべく患者さんにとって侵襲が少ないように、MRIナビゲーション誘導により内視鏡を挿入し、腫瘍を直視しながらの生検術を積極的に行っております。
術中蛍光診断とは
私たちの施設では、15年以上前から術中蛍光診断・治療に関する基礎研究・臨床応用を行ってまいりました。術中蛍光診断は、以下のような手順で術中の腫瘍位置を確認する手法です。
1. アミノレブリン酸を術前に内服してもらう。
2. 手術時に、腫瘍があると思われる部位に波長400 nm 付近のレーザー照射を行う。
3. 腫瘍に代謝蓄積された薬物が赤色光を発する。
4. 境界が分かりにくい浸潤性の脳腫瘍を確認し、確実に摘出をすすめる。
現在、アミノレブリン酸(5-ALA)による蛍光診断は保険適応になり、一般の施設でも使用できるようになっておりますが、私たちは長年の基礎・臨床研究を生かし、今後も内視鏡手術との併用、術中迅速病理診断との併用、他の腫瘍への臨床応用など多方面にわたり、術中蛍光診断・治療の進歩に貢献していく方針です。

 

術中電気生理学的脳神経機能モニターとは

術中に、末梢神経や脳に電気刺激を行い、運動や脳波を誘発し、各神経回路の機能が保たれていることを確認する手技です。以下のようなモニターをフル活用し、安全な手術を行っております。私たちの施設では、モニターの施行に専門の職員(機能検査技師)を3名以上配備し、万全の態勢でモニターを行っており、さらなる手技の向上のための研究も行っております。以下に代表的な脳神経機能モニターをご紹介しますが、これ以外にもNIMモニターや下位脳神経モニターなど様々なモニタリングを行っています。

■運動誘発電位(MEP)
術中に脳に電気刺激を行い運動を誘発し、手足の筋電図や脊髄の電位をモニターすることで、術中に運動機能が温存されていることを確認しながら手術を行います。運動野の同定にも用います。
■感覚誘発電位(SEP)
手を刺激して脳表から電位をとり、感覚野と運動野との境界を同定します。
■聴性脳幹反応(ABR)
術中に音刺激を加えながら脳幹反応を検知し、聴力の温存を確認しながら手術を行います。
■顔面神経モニター
術中に顔面の筋肉(表情筋)から筋電図をとり、顔面神経の機能が温存されていることを確認します。
■外眼筋モニター
術中に眼を動かす筋肉の筋電図をとり、外眼筋の機能の温存をはかります。
■視覚誘発電位(VEP)
網膜から大脳皮質視覚野への電位変化を捉え、視神経の機能温存をはかります。
■視覚誘発電位(VEP)
網膜から大脳皮質視覚野への電位変化を捉え、視神経の機能温存をはかります。
■下位脳神経モニター
気管チューブを通して嚥下にかかわる筋肉の筋電図をとり、機能温存をはかります。

(文責:上月 暎浩)

 
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